読み解け!神戸港紋章記述!

紋章学、というものが世にある。

Twitterにて先日ちょっと興味をそそられるTweetが流れてきたので解説しつつ、読みやすいよう書き起こしをしたいと思う。

 

 

 

The Armorial Bearings of THE PORT OF KOBE

VIDELICET - On a shield  per saltire Vert,Azure Argent and Azure in chief a representation of the Kobe City Emblem Argent,in base barrulet wavy Argent a Japanese "Kitamaebune" ship in sail banner flying Or,in dexter flank an anchor Azure and sinister flank an anchor Argent, Behind the shield is draped a garland of flowers of the Camellia Sasanqua tree and Hydrangea flowers Proper leaved Vert and above is placed a mural coronet Or and a Helmet befitting the degree of a City of Japan with a Mantling of the Liveries of the Port of Kobe (Vert doubled Argent) and on a Wreath of the same is set for Crest a Dutch fluyt in full sail the mainsail ensigned of the Kobe City Emblem and in an Escrol below the shield this Motto "PROGRESSIVE SPIRIT" . On a compartment of the waves of the sea two sea-horses assurgeant Argent, tails Vert armed and crined Or langued Gules ensigned of naval coronets Vert each supporting a standard. the dexter the Kobe tartan Proper and the sinister parted per pale Argent and Gules fretty counter-changed fretty attached to tridents Vert.

 

これは紋章記述(ブレイゾン Blazon)と呼ばれる、「紋章を文章だけで伝える書式」(Twitter添付画像二枚目の文章)をそのまま書き起こしたものだ。

紋章学におけるソースコードのようなものなので、書式は厳密に決まっている。

ただ、書式にさえ従えばいいので、同じブレイゾンに従って作ったとしても表記揺れが発生することは珍しくない*1

専門用語が使われているため、ぱっと見にはわけの分からない文章に映るかもしれない。

拙訳ではあるが以下に和訳を併記する。

解説は後述。

 

 

神戸港の紋章配置

即ち──ヴァート、アズュール、アージェント、アズュールのパー・サルタイアのシールド。チーフにアージェントの神戸市市章。ベースにアージェントのウェイヴィ・バリュレット、オーアの帆の『北前船』。デキスター側にアズュールの錨。シニスター側にアージェントの錨。シールドの背景にプロパーの山茶花の木と紫陽花の花、ヴァートの葉の花綱飾り。上部にオーアの小冠壁、神戸港の古くからの制服(ヴァート、裏地はアージェント)をまとったヘルメット、[ヘルメットの制服と]同ティンクチャーの鉢巻の上、主帆に神戸市市章を描いた帆を張ったフリュート*2。シールドの下にモットー『進歩精神』を書いたエスクロール。波で仕切られた海面にアージェントの上半身、ヴァートの下半身、オーアのたてがみと蹄、ギュールズの舌、ヴァートの海小冠を持つ海馬二頭をサポーターにし、両者旗竿を支えて立つ。デキスターは神戸のプロパーのタータンチェックシニスターはパー・ペイル、アージェントとギュールズのフレッティとカウンターチェンジのフレッティ。旗はどちらもヴァートのトライデントに掲げる。

 

さて、何のことやら、と思う方も多そうなので説明をば

 

シールド(Shield)…まんま「盾」の意味。他の部分を省略しても、この盾の部分さえ描けば紋章として成立する。

ティンクチャー(Tincture)…紋章の図像(チャージ)の色のことを指す。基本色5色(まれに7色とすることもある)、金属色2色と定められている。

ギュールズ(Gules 赤)アズュール(Azure 青)ヴァート(Vert 緑)パーピュア(Purpure 紫)、セーブル(Sable 黒)、テニ-(Tenny 橙(まれ))サングィン(Sanguine 深紅(まれ))

オーア(Or 金)アージェント(Argent 銀)

通例としてフランス語より借入した色名を使い言い表す。

基本色の上に基本色を重ねてはならず、金属色の上に金属色を重ねてはならないので、「金属色の地の上に基本色 or 基本色の地の上に金属色」を大原則とする。

プロパー(Proper)…「自然色」と訳されることがある。文字通り「自然の色のもの」を指し、具体的には「ティンクチャーのルールに縛られない色」のことで、人物の肌色、花の色、固有の色のものなどをプロパーとして指定することがある。

神戸港紋章では山茶花と紫陽花の色、神戸のタータンチェックをプロパーとして指定している。

パー・サルタイア(Per saltire)…パーティ(Partie)というシールドを分割するときの分割のしかたの一つ。パー・サルタイアは「X字に4分割」のことを指す。

チーフ・ベース・デキスターシニスター(Chief・Base・Dexter・Sinister)…紋章の「上部」「下部」「(盾を持つ側から見て)右側」「(盾を持つ側から見て)左側」をそれぞれ指す。

バリュレット (Barrulet)…オーディナリ(Ordinary)と呼ばれる幾何図像の一種。バー(Bar)より細い横線。神戸港の紋章はウェイヴィバリュレットなのでさらに波型に変形されている。

モットー(Motto)…「家訓」や「社訓」に相当する。現在使われる「モットー」の意味と大差はない。ラテン語で書かれることが多いが、英語やフランス語でも書かれる。

神戸港のモットーは英語だが、大阪港の紋章*3ラテン語でモットーが書かれている。

エスクロー(Escrol)…「巻物(Scroll)」の綴替え。モットーが書かれている細長いリボン状の部分

サポーター(Supporter)…紋章の両脇に描かれる動物や人物のことを指す。

神戸港の紋章は海馬

フレッティ(Fretty)…サブオーディナリ(Sub ordinary)という本家に対する分家が装飾として紋章に付け加える幾何図像の一種。斜めに線を引き、柵のように格子状にしたものをフレッティと呼ぶ。

カウンターチェンジ(Counter-changed)…真ん中で線を引き、デキスター側とシニスター側で色を入れ替える手法。

 

駆け足だが、ざっとした解説を付け加えさせて頂いた。

まだまだ説明できそうなところは多々あるものの、一旦はこれにて終わりとさせていただこうかと。

そのうちざっくりした解説書でも出したいなー。

*1:例えば、オックスフォード大学の紋章は「アズュールに3つのオーアの王冠、ギュールズの表紙にオーアのページの書物」という紋章だが、書物に書かれたモットー「DOMINUS ILLUMINATIO MEA」の表記が、同じ大学内の別セクションでさえ若干揺れる。

*2:フリュート - Wikipedia

*3:大阪市:大阪港の紋章 (…>港湾>大阪港のあらまし)