紙ヲタが選ぶ、この100均の紙がすごい!2017

先日Twitter等でダイヨ(大與紙工株式会社)の破産に伴う終売の告知がバズワードに、ということがあった。

大阪の老舗紙工会社ということもあり、小さい頃の「折り紙の原体験」がダイヨの折り紙であったという方は少なくなかったようだ。

しかしそれに伴い囁かれた、ちょっと聞き捨てならないTweetを数点見かけることがあった。

 

『100円ショップの折り紙は質が悪いし、正方形になってないことが多いから』

 

……言わんとすることは非常によく分かる。実際、現在でも質の良くない折り紙、というものは存在し、そういった紙が「折り紙の原体験」となってしまう事態は後を絶たない。

しかし、2017年現在「100円均一で1袋100円(税抜)で購入できる折り紙」の質は急激に向上している。

文具店に行けばたしかに上質な紙の折り紙は存在し、それはそれで原体験としては最適である、それは間違いない。タントとか色上質とかいいよね。

だが、100円ショップの紙にも価格不相応のクオリティを出してくるものが非常に増えたのも事実。

むしろ、「100円ショップ専売」のデザイン性に優れた紙さえ増えてきている、というのが現状だろう。

お子様の情操教育用に、趣味の道具として、選択の一助となれば幸いとこれを記す。

 

  • まず主要メーカーのお話

折り紙の紙というものはいささか特殊な仕様であることが多い。

基本のサイズが150mm×150mm。一般的な規格のA版・B版・四六版などとは一線を画する奇妙な大きさをしている。

これは日本の洋紙製造の歴史に因る部分が大きく、これだけでもブログ記事が一本書けるレベルなので、別の機会にきちんと調査の上で発表したい。

閑話休題

現在日本にて「折り紙」を販売しているメーカーは数社ある。順を追って特色を説明するとしよう。

 

  • ダイヨ(大與紙工株式会社)

書き出しからいきなり無い会社じゃねえかコラ、とお叱りを受けるやもしれないが、まだ在庫が残っていることもあろうとリストに含めることとした。

教育折り紙の西の雄だったと思っていただいて構わない。後述のトーヨーと対をなす企業(であった)。

教育折り紙というのは、社団法人 日本玩具協会の定める基準を満たし、

「複数色(20~50色が多い)が封入されている」

「薄く、コシのある折りやすい紙(秤量で50~60g/㎡)*1

「舐めたりしても害のないインクで印刷されている」

などの要素をクリアしたセットをざっくりと指すと考えていただきたい。要は教材用の規格を満たした紙、というわけですね。

ダイヨは教育折り紙以外では和紙に強く、千代紙等の和紙商品は非常に優れた品を輩出していたので、機会があればお手に取っていただきたい。

和紙らしいコシの強さ、柔らかな質感はダイヨの持ち味なので、ダイヨの千代紙を手に入れられる機会があればぜひともお試しを。

 

ダイヨが教育折り紙の西の雄ならばトーヨーは東の雄と言ってしまって差し支えないだろう。

教育折り紙のパッケージがよく似ているので混同されやすいが、実際ダイヨ倒産時のニュースでもパッケージを混同し「トーヨーが倒産した」と勘違いしている人は多かったですね。トーヨーの商圏は基本的に名古屋以東なので、この記事を読んでいる方の生まれ育った場所が関東や東北だとしたら、その「折り紙の原体験」はトーヨーの教育折り紙である可能性が高い。

ダイヨとは対照的に洋紙やプリント紙に強く、特に柄物の紙は非常に多彩。

Twitterなどで時折紹介されているこちらの「折り札」などもトーヨーの商品。印刷技術の高さに関しては群を抜いている(と個人的には考える)

東急ハンズで購入できる紙はトーヨーのものが多い。次いで次項のミドリの扱いも最近増えている印象がある。

 

  • ミドリ(株式会社デザインフィル)

おしゃれな紙、と言われたら迷わずミドリの「OrigamiOrigami(オリガミオリガミ)」シリーズを推すであろう。

クラフト紙に印刷をした折り紙など、ナチュラルで可愛らしい意匠にこだわった、デザイン性の高いものが揃っている。

一般的な教育折り紙よりさらに薄く(おそらく秤量で40~45g/㎡程度)、ハリがあるので畳紙やパッケージづくり、デコ用に向く。

惜しむらくはこちらの製品、非常に柄の入れ替わりが激しく、店頭在庫のみしかないという場合が多々あるため、気になるものがあれば見かけたときに即座のご購入をおすすめする。お気に入りの柄のアソートがもうすでに終売していたなんてことはザラです……。

 

  • ショウワグリム(ショウワグリム株式会社)

ジャポニカ学習帳」で有名なショウワノート株式会社の子会社。折り紙やステーショナリーをメインに製造している。

教育折り紙の製造に強く、特殊紙の折り紙の生産なども行っている。

またオーロラ折り紙やハーモニー折り紙といった特殊な加工・印刷の折り紙を古くから生産していたメーカーでもあり、七夕飾りなどでは非常によく見かける華やかな紙が多い。

ただ、ショウワグリムの強さはその点だけではない、むしろそれは添え物にすぎない、

ショウワグリムの一番の強みは「日本おりがみ会館(ゆしまの小林)」及び「日本折紙協会(NOA)」とのパイプを有していることだ。

日本で「折り紙」に関する産業をするのならば、どちらか/どちらもつながりを持つことになることが予想される陣営と言ってしまっても過言ではないであろう。

ショウワグリムはどちらとも取引が存在し、加えて言えば日本おりがみ会館とは結び付きが強い。

ショウワグリムは特殊加工紙に強く、ショウワグリム社でしか出していない紙も複数ある、ということを覚えていただけると幸い。

 

  • クラサワ(株式会社クラサワ)

こちらもショウワグリムに似た傾向の折り紙をよく生産している。

だが、ショウワグリムよりは和紙に強く、油紙や千代紙、特に金もみ和紙等に強い傾向がある。

またオーロラシャイン折り紙(ややこしいが、ショウワグリムのオーロラ折り紙とは質感も紙厚も全く異なる)、ホログラム折り紙などはこの会社の独壇場といっても過言ではない。

フィルム・ホイルのような非パルプ折り紙にも強みを発揮する会社だ。

なお、金・銀などのいわゆる「ホイル折り紙」の単色パックはトーヨー・クラサワ・エヒメ紙工の3社が主に販売している(他には株式会社たんぽぽやオキナ株式会社等の生産もある)。小さい頃は金色の折り紙って宝物でしたよね。

 

  • アイアイ(エヒメ紙工株式会社)

ショウワグリムなどの「教材」としての紙にさらに特化したようなメーカー。

色画用紙・紙テープ・OAペーパーなども生産している。

ショウワグリムが「生徒に向けて」の教育折り紙メーカーだとすれば、アイアイは「先生に向けて」の教育折り紙メーカーだといえるかもしれない。

どちらかといえば質実剛健といったラインナップで、あまり華美なもの・突飛なものは作らない傾向にある。

しかし、ここ最近はデザイン性のある紙の生産も始めている。どう攻勢をかけるか少し見もの。

 

  • Komoda(薦田紙工業株式会社)

折り紙、という意味で見れば、100円ショップでの扱いが大きな比重を占めるメーカー。

100円ショップの折り紙の質が上がった主な仕掛け人、と言えるかもしれない。

和紙・洋紙どちらも取り扱うが、どちらかといえば洋紙の質の方が高いように感じる。

プリント紙の質がよく、少し変わった柄の紙もよく出している。季節モノの柄をきちんきちんと出してくるのが強み

 

  • Kyowa(協和紙工株式会社)

薦田社と同様こちらも100円ショップに多く品を供給しているメーカー。

薦田にくらべて若干割高(1パックに封入されている枚数が少なかったり、色数が減らされてたり)だが、品質は薦田に比べて全体的に良質な印象を受ける。

画用紙のような厚手の紙に強みを発揮する……気がする。 

発色は非常に綺麗。

 

  • Amifa(株式会社アミファ)

ここまで印刷会社や製紙会社、文具製造会社の折り紙部門が続いたが、このAmifa社は若干毛色が異なる。

メインはラッピング資材、つまり生花包装用のラッピングペーパーなどをメインにデザイン・生産している。

マスキングテープなどのクラフト素材にも強い。そういう意味では先述のミドリと似ているかもしれない。

作っている紙もそういった意味でミドリに似ているが、どちらかといえばミドリよりガーリッシュだったりファンタジックだったり。

アミファのクラフト紙の折り紙は使っていて面白いので気になるならば一度ご購入をおすすめしたい。

 

  • では本題

ダイヨ・トーヨー・ミドリ・ショウワグリム・クラサワ・エヒメ・薦田・協和・アミファと主要9社を列記した。

このうち、いわゆる100円ショップで手に入れられると確認できているメーカーはエヒメ・薦田・協和・アミファの4強となる。

日本の100円ショップはザ・ダイソー(株式会社大創産業)・セリア(株式会社セリア)・キャンドゥ(株式会社キャンドゥ)・ワッツ・ミーツ・シルク(以上3形態全て株式会社ワッツ)の4社でほとんどのシェアを占めている。

さらに、ダイソーは自社ブランドとしているため、どこのメーカーなのかは判然としないものが多い(ただし、ショウワグリムの折り紙と同一のものを販売しているため、ショウワグリムの製品をPB化している可能性はアリ)

残りのセリア・キャンドゥ・ワッツもさほど商品に差はないが、アミファのみセリアに流通がある。

このあたり『クラフト材料の品揃えが多い』という定評のセリアが「折り紙」というジャンルにおいても頭一つ抜けてきた、という印象は強い。

 

そんななかでも個人的に強くおすすめしたいのは

薦田のワックスペーパー折り紙

協和のパステルカラーペーパー

同じく協和のレースペーパー

アミファの季節柄商品

ダイソーの透明折り紙

の5点をおすすめしたい。

順に紹介をしていこう。

 

  • 薦田 ワックスペーパー折り紙

ワックスペーパーなのでごくごく薄い紙(秤量で35~40g/㎡程度)が使用されている。

折り紙サイズに整形されたワックスペーパーというのはかなり珍しく、現在広く流通しており、単色のものは薦田のばかり、という印象がある(ドット入りのものはダイソーで入手可能、ストライプのものはエヒメが生産している)

ワックスペーパーなので不用意に折ると変な折り目が付いてしまい扱いが難しいが、透け感を出していきたいような場合には重宝する。

惜しむらくは色展開が少なく、チョイスがいささか扱いに困ることだろうか(赤・青・ベージュ・黒の4色。同時に展開しているラッピング用ワックスペーパーとはなぜか展開色が異なる)。

  • 協和 パステルカラーペーパー

協和からは2製品を選出させていただいた。まずはパステルカラーペーパー。

普通の折り紙と違うのはこの折り紙がいわゆる「色上質」を使って作られていることだろうか。

平たく言って模造紙と同じ紙をカットを変えたものなのだが(実際に協和は四六判の模造紙を100円ショップに流通させている。B紙って通じないんですね……)、それゆえに「普通の折り紙」にない特徴を出すことに成功している。

「表裏同色」だ。

一般的な折り紙は非常に雑に言うなら大きな紙に片面印刷を施し、それを裁断する、という工程を経て作られる。

これは洋紙の折り紙ならば逃れられない宿命であると言い切ってしまっても良いだろう。和紙や色画用紙のように「紙そのものに着色」しない限り、この縛りからは逃れることが出来ない。

しかし、協和は模造紙を折り紙化してしまった。これはかなり画期的だったと言ってもいい。ほどよく薄く、コシのある折り味はぜひとも一度味わっていただきたい、と思い選んだ次第。

入っている色数も多めでコスパもかなり優れている、と書き添えておく。

  • 協和 レースペーパー

レースペーパーといっても真っ白いものではない。和紙に切り抜きを入れ、麻の葉文様などの文様が現れるように形作ってあるものである。なんじゃそりゃ、と思った方はぜひとも一度お手にとっていただきたい。

この記事において、「和紙」の製品が省いてあるのはきちんと意図している。

悲しいかな、和紙というのは洋紙に比べ紙の目がしっかりしているため湿度の影響を多大に受けてしまう。

今回の記事が「100円ショップの折り紙もバカにはできない」という意図のもと書かれている以上、天候条件等で「正方形でなくなってしまう」可能性の大きい和紙製品は選外となっている。

それでもあえてこの製品を挙げたのは「100円ショップにしかないような特異な製品」であると判断したためだ。

非常に涼やかな意匠の紙となっているため、敷き紙のようにして使っても和モダンなインテリアとして活躍するだろう。

スプレーのりなどを使って真っ白な折り紙と接着して、なんて使い方もおもしろいかもしれない。使う人間のイマジネーション次第で大化けする紙だろう。

  • アミファ 季節柄商品

アミファの製品も選出したが、こちらはかなりくくりを大きくしてある。

季節柄、というのはその時節のイベントを意識したような柄の折り紙のことを便宜上そう呼んでいるだけにすぎない。

バレンタインのハート柄・春先の桜アソート・ハロウィンのオレンジ+紫のアソート・クリスマス仕様の白+赤+緑の柄物……非常に多彩なバリエーションがある。

それだけ季節ごとの柄が用意されている、というのはなかなかに驚嘆に値すべきことだと考える。

「折り紙で」「季節モノの柄」ということで子供っぽい物を想像されるかもしれないが、それはけして正しくないとだけ言っておこう。

いささかガーリッシュな意匠が多いのも事実だが、落ち着いたデザインが多く、イベントごとの特徴をしっかり考えた可愛らしいものとなっている。

ミニパッケージなどを作るにはちょうどいい紙、とも言えるかもしれない。

透明な折り紙、というのは非常に難しいものとされていた。

トレーシングペーパーやパラフィン紙は透光性こそあれど透明には程遠く、しかも折り目の入れ方によっては折り目に沿って割れてしまう。

では樹脂系は?となるとこれも難しい。セロファンはシワが寄る事が多く、見た目が悪い。ポリエステルではそもそも折り目がつかないことも多い。

そんななかに現れたのが東洋紡のオリエステル*2だ。

ざっくりと言えば「特殊加工により折りたためるようになったポリエステルフィルム」なので、折ることをまず主眼に置かれている。

透明性もきちんと担保されているので鑑賞に十分耐えうる。現在流通している折り紙としては破格に美しい非パルプ系折り紙のひとつだと個人的には考える。

ダイソーのものが同等のものかは不明ながら、おそらく同一のものだと考える。

実際にこちらも透け感は抜群なので、一度お試しあれ。

 

  • 最後に

長長と書き連ねたが、折り紙、というものは紙に左右されるものではない。

チラシを正方形に切り取ったもので作った折り鶴と高級和紙で作った折り鶴はたしかにどちらも同一の「折り鶴」だろう。

薗部ユニットも川崎ローズもルカシェーヴァのユニットもラングの鳩時計さえも所詮「紙は紙」でしかないのだから。

しかし、日本には連綿と紡がれてきた「折り紙」という文化があり、それを補助するものとして「折り紙」という専用の用紙が市販されている。

100円均一の紙だからといってそれがけしてバカにできるような品質のものでなく、さらには独自の特色を持った素晴らしい物を輩出してきている、ということを少しでも理解していただけたなら私がこの記事を書いた甲斐があったというもの。

さらにはそれで少しでも「折り紙」を手にとってもらえたなら、鶴の一羽、手裏剣の一つでも折ってみようという気になったのならば望外。

少しでも貴方の生活がおもしろおかしく、豊かになることを願って筆を置くこととしよう。

*1:1m×1mの大きさの紙の重さを用いて紙の厚みを表す。一般的なコピー用紙は64g

*2: http://olyester.net/