ほとんど弐寺SPをやってこなかった人間が1年弐寺DPをやってみた

タイトル通りです。

 

SPは一番頑張ってたときでPEN四段。☆9イージーがギリギリかな、というほどの腕。

少し弐寺自体から離れてCHで出戻り、DPerになりました。

DPというプレイスタイル自体が特殊な上、DPerはSPをそれなりにプレイした人間がやるもの、というイメージからするとかなり邪道なプレイスタイルですが、DP初級者が初心者に向けての備忘録として残しておきます。

 

ところでお前の腕前は

(以下断りない場合☆+数字で書き表したものは「DP」譜面のレベルであり、譜面を例にするときはDPNないしDPHであるものとします)

☆6のイージーがちらほらある程度です。最近Kung-Fu EmpireDPNのラストが耐えきれなくて死にました。RDT段位はまだ受けていないですが一級がいけるんじゃないかな?というくらいの腕だとおもっていただければ。

この記事の目的は

DPerに向けた攻略情報等のほとんどが中級者以上のものであり、初心者がやるべきこと・やったらいいことに触れたものが極少数だったため「先達はあらまほしきことなり」の原則に則って自分が書くことにしました。

DPたのしい?

正直すごく楽しいです。DPは演奏感が非常に強いので「ああ、音楽してるわ……」となれます。たのしい。

逆につらいことは?

譜面動画がない。この一点に尽きます。お前が上げろと言われたらそこまでなのですが、DPNの譜面動画は非常に少なく、TexTageで譜面を研究するくらいしか方法が残されてないことも多いです。たまーにニコニコなんかにあったりしますが……。

 

 

以下箇条書きにて

  • ☆1フォルダは罠です。☆2から見始めましょう

これは本当に罠なんですが現行のRESIDENTにおいてDP☆1フォルダは非常に癖が強い譜面しかいません。quick master(reform version)(copula)DPNはまだ易しめではありますが5.1.1.(1st)DPNはちょっと初心者におすすめできるかと言われると首を傾げてしまうような選曲です。

個人的なオススメは☆2のCALL(Lincle)、ちらちら・はらはら(SINOBUZ)、白露の風(PENDUAL)。ATOMIC AGE(9th)やTangeline Stream(3rd)なども面白いのですが、ちょっとレベルに比して難しい部分があるので、積極的にはオススメしません。

  • 低レベルはレベリングが怪しい部分が多いです低レベルだけじゃない?それはおいといて

おそらくなのですがDPの低レベル帯はかなりレベリングが不安定です。例として水上の提督(Short mix from "幻想水滸伝V”)(SIRIUS)☆3は左右でのバラバラのリズムがあったりして☆3にしてはちょっと強めです。☆4でも信じられるくらい。同様に紅蓮華(BISTROVER)☆3もレベルの割には配置がキツく、強い印象があります。泰東の翠霞(Rootage)?知らない子ですね……

  • HSはSPの緑数字を参照して+50~100くらいで設定するといい、かも?

SPをある程度やっている前提でのお話になるのですが、自分の場合SPでの緑数字は290、DPの緑数字は350に設定してプレイしています(白数字は両者とも350くらい)

DPはSPに比べて情報量が多いので、情報をさばくために時間が必要です。緑数字は思っているより一気に大きくしてしまいましょう。

  • 判定調整はしっかり使っちゃいましょう

判定調整機能を使ってある程度調整をかけておくと自分の癖が把握できると思います。自分の場合は自動調整を使って+1.3にしています。これ結構大切。すごい早押ししてたり遅押ししてたりします。

  • 作曲者やバージョンによって譜面傾向が極端に変わるときがあります

低難易度猫叉Masterは比較的易しい配置が多く、低難易度のwacは妙に繰り返しの多い配置になることが多い印象があります。kors kSota Fujimoriは細かい動きが多めになって、Ryu☆はうっすらほんのりレベル詐称です。

そして!!!!初心者は!!!古いバージョンの!!!譜面は!!!!触らないで!!!!!!!特に10th以前!!!!!!!!!DPを嫌いにならないで!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

とりあえずまったり1年続けるとこれくらいの腕になれますよ、というお話でした。

どうぞ良きDPライフを。

ゆに国建国に寄せて ~或いは紋章学的興味とゆに国国章~

 

2019年11月10日、Vtuberの赤月ゆに女史が建国を宣言した。

その国章が大変興味深いものであったため、その造形の巧みさを味わうためにこの記事を書くこととする。

拙文ではあるがお読みいただければ幸甚。

 

  • まず紋章とは

紋章というのはまず「戦場においての個人識別タグ」であることを大前提としている。

故に個人識別に役に立たないデザインはルールで排され、存在してはいけないものとされている。

主なものは「同一主権内での同一紋の使用禁止」「彩色ルールの徹底」の2点。

「同一主権内での同一紋の使用禁止」はわかりやすい。同じ紋章が2つあっては識別タグとして機能するものもしない。なので西洋の紋章は一人一つが大原則である。

「彩色ルール」としては細かいものを含めると数限りないが、基本となっているものは2つ。

基本色5色 赤(ギュールズ Gules)青(アズュール Azure)緑(ヴァート Vert)紫(パーピュア Purpure)・黒(セーブル Sable)金属色2色 金(オーア Or)銀(アージェント Argent)のみを使用する」

基本色の上に基本色を置いてはいけない。金属色の上に金属色を置いてはいけない

前者に関して言うならば基本色5色というルールが崩れている事が多いので重要視することは少ない。特に近世の紋章になればなるほど崩れがちなルールである。ロゼ(Rose)テニー(Tenny)サングィン(Sanguine)アクアマリン(Aquamarine)などの基本色がある。

後者は鉄則で、これを破ることは厳に戒められている。ややこしいように見えるが『金地に銀を置く』『赤地に黒を置く』などはNGということを頭に入れていれば問題ない。

ルールだけくだくだしく述べていてもただの羅列記事となってしまうのでこのあたりで割愛したい。このあたりは過去の記事でも触れているため、ご興味あるならば一読いただくと理解がしやすいかと。

 

boxcars-snakeeyes.hatenablog.com

 

  • 赤月家紋章を見てみよう

 ではあらためて赤月家紋章、というかゆに国国章を見てみよう。

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まずは紋章の両側にいるコウモリが目を引く。これはサポーター(Supporter)といい、紋章のうちでもさらに正式なもの(中央の盾部分だけでも紋章として成立するので、実務的には不要。しかしこれを付けられるのは相当な権威)に特有で、このサポーターがついた紋章を「大紋章(アチーヴメント Achievement)」と呼ぶ。

上部は一般的にヘルメット(Helmet)という鎧の頭部、もしくはミューラルクラウン(Mural Crown)という城壁の形をした冠をかぶせるのが通例だが、今回の場合は赤月女史のリボンを模したクラウン(Crown)と見るのが妥当だろう。

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クラウンは王冠なので当然紋章に冠するならば君主にしか許されない。実際の紋章ではこのクラウンの上にクレスト(Crest)というパーツを置いたりするのだが、クレストは家系で継承されるものなので、今回の紋章は継承を行わず新規に作ったものと考えられる。

次に下部。エスクロール(Escroll)、もしくはスクロール(Scroll)と呼ばれる巻紙のような部分に「Ex scientia sanguis fit(ラテン語:叡智は血より出ずる)」と書かれている。

 

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紋章学ではモットー(Motto)と呼ばれ、家訓などに相当するものである。あまり普通の意味との乖離はない。

盾(エスカッシャン Escutcheon)に話を移そう。

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まず、この分割が目に留まる。シャーペ・プロワイエ(Chapé-Ployé)というイングランドの紋章にはほとんど見られない分割である。

逆に言うと大陸の紋章では比較的よく見られる。つまりこの紋章のルーツはイングランドではないものと考えて差し支えないだろう。

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順にデキスター(Dexter 盾を持つ人間から見て右側。紋章では右のほうが高位)から見てゆこう。

アズュール地にアージェントの右向きの三日月とオーアの星。

紋章学で三日月を取り上げる際は、特に断りがなければ弧が下向きになるように配するので、この場合は「右向きの」という形容を付けて向きを指定する。

また、星に関しては指定がないならば六芒、もしくは八芒の星となる(紋章学的にはブレイゾン Blazonという紋章学用ソースコードの指定がStarとなっていた場合、その星の形は五芒でも六芒でも構わない、という原則があるため)

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次に中央部。

アージェントとギュールズのチェッキーにセーブルの赤月ゆにのロゴ。

チェッキー(Chequy)はいわゆる市松模様

少しこの部分は紋章学的に際どい、かもしれない。というのも部分的に「赤の上に黒」となる部分があるためだ。

基本はチェッキーの上に他の図形を置くことは少ない。前述の彩色ルールに抵触する可能性が高いせいで使用例はごくごく少ない。

こういった場合では「赤月ゆにロゴ」を自然色(プロパー Proper。それ以外の色で塗ることが考えられないものにそれ専用の色を指定する。人間の肌色や花の色など)に指定しているものと考えられる。

実際BOOTHで売られているキーホルダーを見るとロゴの色は黒で固定されているようなので「このロゴは黒である」と指定してしまえば彩色ルール違反からは逃れることができる。

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最後にシニスター(Sinister デキスターの逆側、盾を持つ人間から見て左側)を見る。

オーアにギュールズのスリーバー。

スリーバー(Three bars)はそのまま三本線のこと。最上部と最下部がオーアとなっているので「金地に赤線を引いた」扱いとなっているが、これが最下部に赤線がもう一本増えていた場合「オーアとギュールズのバリー(Barry)」となり扱いが若干変わるので注意。

 

  • 終わりに

この紋章、実はある史実の紋章を下敷きにしている。

少し紋章学をかじった人ならばわかるような有名な紋章なので、わかった方も多かろうと思われる。

15世紀バサラブ朝ワラキア公国ドラクレシュティ家紋章

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ワラキア公国でピンときた方も多いものと思われる。串刺公ヴラド、ドラキュラ公とも呼ばれるヴラド三世公のドラクレシュティ家紋章だ。

なお、奇しくもゆに国建国の11月10日はヴラド三世の生誕日(1431年11月10日-) 。吸血鬼の末裔たる(Twitterにてご指摘いただきましたので訂正いたします。ご指摘誠にありがとうございました)1000年の永きを生きる赤月ゆに女史にとっては記念すべき日であろうことは想像に難くない。

 

長々と書いたが、紋章学という学問を学ぶ身からすると、その学問がこのような形で世界を豊かにしているのを見ると大変に喜ばしく、嬉しい気持ちとなる。

このように紋章学が様々な世界で活躍してくれる世の中を願ってやまない。

 

  • おまけ

An Emblem of Yuni Akatsuki Sable proper,on chequy Argent and Gules chapé-ployé,the dexter chapé Azure in chief a crescent increscent Argent,in Base mullet Or.the sinister chapé Or three bars Gules.

エスカッシャン部の紋章記述(ブレイゾン Blazon 紋章のソースコードにあたり、この記述に従う限り、多少の表現の揺れは無視される)はこのようになると思われる。

ご参考までに。

真なるかな真なるかな #メギド72

メギド72にハマっている。

最近急激にユーザー数を増やしているスマホゲームだ(ソーシャルゲームではない) 。

メギドは祖と真の二種に大きく分かれ、祖の72のメギドはいわゆる「ソロモン72柱(レメゲトン)」に記載のある悪魔をベースにしている。

対して真の72のほうは「それ以外の伝承の悪魔」に題材を求めている。この「それ以外」がかなり範囲が広く、可能な限り確認できたものを記していこうと思う。

  • 真-1 リリム(Lîlîn)
    元ネタ:ユダヤ伝承
    アダムの一番最初の妻・リリスの娘とされる悪魔。別名「リリン」。
    エヴァの有名なセリフ「歌は心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ」の『リリン』はこの悪魔のこと。
  • 真-2 ニバス(Nybbas)
    元ネタ:中世ヨーロッパ悪魔学
    コラン・ド=プランシー『地獄の辞典』における地獄の宮廷の道化師長。
    幻視・悪夢などを司るとされる。
  • 真-3 サキュバス(Succubus)
    元ネタ:ヨーロッパ伝承
    ラテン語読みではスクブス(Succubus)。語源は「下に寝る(succubo)者」。語源通り女性型の淫魔の総称。
    ハインリヒ・クラーマー『魔女に与える鉄槌』などの魔女関連の論文にも頻出する悪魔。
  • 真-4 ユフィール(Uphir)
    元ネタ:中世ヨーロッパ悪魔学
    『地獄の辞典』に名前の見える「外科医長」。
    地獄の悪魔たちの健康を保つ役割を果たすとされる。
  • 真-5 フリアエ(Friae)
    元ネタ:ローマ神話
    ローマ神話の復讐の女神。ただ、フリアエ(Friae)は複数形で単数形はフリア(Furia)。
    ギリシア神話のエリーニュエス(Erinyes、単数形エリーニュス Erinys)をローマに導入した女神たちの総称。古くは不定数だったが後になって三相女神となり三柱の女神の総称となった。
  • 真-6 アラストール(Alastor)
    元ネタ:ギリシア神話→中世ヨーロッパ悪魔学
    ギリシア語で「復讐するもの」の意味を持つ。ギリシア神話の「ネメシス(Nemesis)」の男性神格とされる。悪魔学に取り入れられ地獄の死刑執行官とされた。
    前述の「エリーニュス」もネメシスと同じく復讐の女神とされるが、エリーニュスがどちらかといえば人間同士の情動で発生する場合の「復讐」を司る存在とされたのに対して、ネメシスは人間から神への傲慢に対しての「復讐」を司るとされた。
  • 真-7 ヒュトギン(Hutgin)
    元ネタ:中世ヨーロッパ悪魔学
    ヨーハン・ヴァイアーの『悪魔の偽王国』に名前のみえる悪魔。地獄の宮廷のイタリア大使を務めるとされる。
    コラン・ド=プランシーによれば妻の不貞を疑う夫がヒュトギンに命じ、妻が愛人をベッドに引き込むたびに放り出すように命じた逸話がある。
  • 真-9 インキュバス(Incubus)
    元ネタ:ヨーロッパ伝承
    ラテン語読みでインクブス(Incubus)。原義は「上にのしかかる(incubo)もの」。女性型のサキュバスに対して男性型の夢魔を指す。
    古くは5世紀のアウレリウス・アウグスティヌス神の国』にもインクブスの名前が見え、女性を襲い妊娠させると信じられた。
    ルネサンス時代にはその伝承を逆手にとって不義密通の言い訳として使われる例もあったとされる。
  • 真-10 グリマルキン(Grimalkin)
    元ネタ:ヨーロッパ伝承
    グレイマルキン(Greymalkin)とも。原典はイングランド伝承。シェイクスピアマクベス』にも登場する。

    今往くよ、灰毛猫《グレーモルキン》!

      ――『マクベス』第一場第一幕 魔女(坪内逍遥訳)

    魔女の使い魔のネコのことを指す名前であったらしい。

  • 真-11 コルソン(Corson)
    元ネタ:中世ヨーロッパ悪魔学
    メギド72では四冥王とされるガープ・ジニマル・アマイモン・コルソンは『ゴエティア』で四方を司るものとされ、コルソンは南方の守護を司るとされる。
    別名、ゴルソン(Gorson)。
  • 真-12 ジニマル(Zymymar)
    元ネタ:中世ヨーロッパ悪魔学
    27の悪魔を部下として従える悪魔。別名、ジミマイ(Zymymay)・ジミニアル(Zyminiar)。
    コルソンと同じく四方を司るとされ、北方を司るとされる。
  • 真-13 バフォメット(Baphomet)
    元ネタ:中世ヨーロッパ悪魔学
    黒ミサを司るとされる。テンプル騎士団が信仰していたとされ、それを論拠に「テンプル騎士団が異端である」という審問に使われることとなった。
    オカルティズムやサタニズムではおなじみの存在だが、実は出典が判然とせず、11世紀末〜12世紀頃の書簡に名前が見える程度である。
  • 真-14 サラ(Sarah)
    元ネタ:旧約聖書
    かなり元ネタが特殊なメギド。 旧約聖書(プロテスタントでは認められていない)『トビト記』が出典であると考えられる。
    その同じ日にメデヤのエクバタナに於いて、ラグエルの娘サラその父の婢たちより辱しめられたり。そはかの女七人の男に嫁ぎたれど、その夫等ら彼と寢る前に惡靈アスモデオス彼等を殺したればなり。その婢等かれに言ふ『汝、夫たちを締め殺したるを知らざるか。汝既に七人の夫を持ちたるも、その一人の名をだに用ひしことなし』――トビト 3:7-8
    アスモデウスに取り憑かれ、嫁ぎ先の夫を7人も殺した娘の名前が「サラ」であり、メギド72のサラも取り憑かれていることを考えるとおそらく出典である可能性が高い。
  • 真-15 サタナキア(Satanachia)
    元ネタ:中世ヨーロッパ悪魔学
    グリモワール『真正奥義書』に名前の見える悪魔。
    プルフラス、アモン、バルバトスを配下に持つ地獄の総司令官とされる。
  • 真-17 ティアマト(Tiamat)
    元ネタ:メソポタミア神話
    メソポタミア神話において原初の海の女神とされる。
    ティアマトは自らの生み出した新たな世代の神々との戦いにおいて「11の怪物」をみずからの身に宿し、新たな世代の神々と戦ったとされる。
    メギドのティアマトが自力で歩けないほど巨大な腹部をしているのはそのせいであると推察される。
  • 真-18 ブニ(Buni)
    元ネタ:中世ヨーロッパ悪魔学
    ブネの配下とされる悪魔の名前。メギドでも原典でもほとんど設定が変わらない。
    『地獄の辞典』に名前が見える。
  • 真-22 カスピエル(Caspiel)
    元ネタ:中世ヨーロッパ悪魔学カバラ
    月を司る天使であり悪魔。Caspiel、もしくはQaspielと綴るが、どちらの場合でも月を司ることには変わりがない。
    ソロモン王が使役したとされる霊のうちに含まれるため、どのタイミングで悪魔へと変質したかは不明。
  • 真-27 マルチネ(Martinet)
    元ネタ:中世ヨーロッパ悪魔学
    『悪魔の偽王国』に名前の見える悪魔。地獄の宮廷のスイス大使を務めるとされる。
    また、16世紀イングランド・チェルムスフォードの魔女エリザベス・フランシスの魔女裁判時の証言によれば魔女の使い魔の名前として使う例があったとされる。
  • 真-31 フルーレティ(Fleurety)
    元ネタ:ヨーロッパ悪魔学
    グリモワール『真正奥義書』に名前の見える悪魔。ベルゼブブの部下でありバティン・エリゴス・プルソンを配下に持つ悪魔とされる。天候を操り、望む場所に雹を降らせる力があるとされる。
  • 真-33 ハック(Hack)
    元ネタ:ヨーロッパ伝承
    フレッド・ゲティングス『悪魔の辞典』によると「文学的表現での『悪魔』」のことを指すとされる。ある種の隠語のようなものである様子。
    『ソロモンの小さな鍵』に地獄の首領として最有力の一人と記載がある。
  • 真-36 メフィスト(Mephisto)
    元ネタ:ヨーロッパ伝承(主にドイツ)
    16世紀ファウスト伝説に名前の見られる悪魔だが、元来はメフィストフェレス(Mephistopheles)と呼ばれる(メフィストと短縮して呼ぶ文献がないわけではない)。
    ファウスト博士と契約を取り交わし、ファウスト博士の魂を弁舌でどうにか悪徳の道へと進ませようとする悪魔とされる。シェイクスピアウィンザーの陽気な女房たち』にも名前の出てくる悪魔でもある。

    どうしたと、このメフィストフィリウスめ!

      ――『ウィンザーの陽気な女房たち』(小田島雄志訳/白水Uブックス)

  • 真-38 ガリアレプト(Agaliarept)
    元ネタ:中世ヨーロッパ悪魔学
    グリモワール『真正奥義書』また、『大奥義書』に名前の見える悪魔。
    『真正奥義書』ではサタナキア・ルシフェルとともにヨーロッパ・アジアに住むとされる。『大奥義書』ではサタナキアとともにブエル・グシオン・ボティスを配下に持つ地獄の司令官とされている。
  • 真-41 アマイモン(Amaimon)
    元ネタ:中世ヨーロッパ悪魔学
    マグレガー・メイザース訳『アブラメリンの書』、アレイスター・クロウリー『777の書』、『ゴエティア』等に名前の見える悪魔。
    ガープらとともに四方を司る悪魔とされる。アマイモンは東を司るとされるが『777の書』では北を、『アブラメリンの書』ではオリエンス・パイモン・アリトンとともに四方を司り、方角が一定しない(北・南・東のどれかとされる)
  • 真-43 サルガタナス(Sargatanas)
    元ネタ:ヨーロッパ悪魔学
    『真正奥義書』『大奥義書』に名前の見える悪魔
    契約者の姿を透明にしたり、あらゆる鍵を開け様々なところを覗き見させたりする悪魔。『法王ホノリウスのグリモア』によると地獄の宮廷内では准将の立場にあるらしい。
  • 真-49 サタナイル(Satanail)
    元ネタ:旧約聖書偽典
    『第二エノク書』等の外典・偽典に名前の見える堕天使の一柱。後述のシャミハザと同じく堕天使の一団グリゴリの長とされている。
  • 真-50 シャミハザ(Shamhazai)
    元ネタ:旧約聖書偽典
    『第一エノク書』、『ヨベル書』等の外典・偽典に名前の見える堕天使の一柱。 『エノク書』に記載のある堕天使の一団グリゴリの長とされる。
    グリゴリは人間たちに禁じられていた知識を与え、ノアの大洪水の遠因となったとされる。ゆえにシャミハザは『文化英雄(後述)』としての側面を持つとされるとされる。
  • 真-51 プルフラス(Pruflas)
    元ネタ:中世ヨーロッパ悪魔学
    ヨーハン・ヴァイアー『悪魔の偽王国』に名前のみえる悪魔。
    ゴエティア』には登場しない悪魔だが、『大奥義書』ではサタナキアの配下の悪魔であるとされる。
  • 真-52 ジズ(Zîz)
    元ネタ:ユダヤ伝承
    旧約聖書に登場するベヒモスレヴィアタンとともに三体で一対とされる巨大な怪物たちの一体。
    ベヒモスが陸、レヴィアタンが海、ジズが空を象徴するとされ、ジズは巨大な鳥として説明されている。
  • 真-55 アリトン(Ariton)
    元ネタ:中世ヨーロッパ悪魔学
    アブラメリンの書』『777の書』に名前の見える悪魔。アマイモン・オリエンス・パイモンともに四方を司るとされ、司る方角は西・北の二つの説がある。
  • 真-57 ベヒモス(Behemoth)
    元ネタ:ユダヤ伝承
    前述のジズと出典は同一。天地創造の5日目に作り出したとされる獣であり、1日に千の山に生える草を食い尽くすほどとされる。
    中世以降は悪魔であるという見方が強まり、暴飲暴食を司るとされるが七大罪においての「暴食」に対応する悪魔はベルゼブブである。
  • 真-58 ダゴン(Dagon)
    元ネタ:カナン神話
    クトゥルフ神話にも同名の神格が存在するが、そちらはこの神が流用されたものであるため注意。
    古代パレスチナにおいてペリシテ人が信仰していた神。『士師記』においてサムソンが柱を引き倒すことにより3000人のペリシテ人とともに死んだとされる説話はこのダゴンの神殿におけるもの。
    『地獄の辞典』では地獄のパン焼きとパンの管理を司るとされる。
  • 真-62 インプ(Imp)
    元ネタ:ヨーロッパ伝承
    どちらかといえば妖精に近い存在の悪魔。
    古英語のimpa(挿し木)に由来し、種もないのに花を咲かせ実を付けることから魔術的意味のある植物であるとされていた。そこから転じ「(名門の)御曹司」などの意味が生じ、17世紀頃には「imp of the devil」などの形で悪魔と関連付けが行われていた。
    なお、この時点でもうすでに魔女などに使役される小悪魔というイメージがほぼ固定されていたようである。
  • 真-64 プロメテウス(Prometheus)
    元ネタ:ギリシア神話グノーシス主義
    現在実装されているメギドのなかでおそらくもっとも元ネタが難解なメギド。
    まずはプロメテウスという神について。ギリシア神話において天界から火を盗み人間に与えたとされる神である。その行為によりプロメテウスは岩に縛り付けられ、3万年のも間生きながら延々と肝臓をついばまれるという責め苦を受けることとなった。
    このためプロメテウスは「文化英雄」とされる場合がある。文化英雄というのは神話学において「神の知識」であったものを神の手から人の手に渡したものの総称である。ネイティヴアメリカン神話のコヨーテやレイヴン、中米神話のケツァルコアトル、前述のグリゴリなど全世界の神話にあまねく見られる。
    そしてグノーシス主義。紀元2〜3世紀ごろの初期キリスト教の異端とされ(近年の学説では「異端」ではなく「異教」と考えられているが、一旦は「異端」であるとして話を進める)、「反宇宙的二元論」を基盤とする思想である。
    グノーシス主義に関してあまり筆を割くわけにもいかないため、非常に割愛した文となってしまうが、とても興味深い思想であるため一度お調べになってみることをおすすめしたい。
    雑駁に書くならばグノーシスの神話においては今我々がいる世界を偽の宇宙であり、純化された善の宇宙が別にあると説く。そして「ソピア」と呼ばれる神の作った「ヤルダバオト」という狂える神が今我々のいる世界を作ったとする。 そして、グノーシス的視点において、聖書・創世記の「楽園追放」は次のように変質する。
    ルシフェルという名の蛇が至高なる者としてアダムとイヴという人間のもとに遣わされ、人間らに知識を与えた』(グノーシス主義オピス派の唱える説)
    さて、ここで名前の出てきたルシフェル(Lucifer)はラテン語で光(Lux→Luci-)+運ぶもの(ferre→-fer)と解釈される。また、光(知識)を運んだためこの蛇を「文化英雄」と見る場合もあり、ゆえにルシフェルを文化英雄と見ることもできる。
    ここで思い出してほしいのが、プロメテウスもルシフェルと同じく「光(=炎)を人間に与えた」ということである。このつながりをもってして、グノーシス主義ではプロメテウスとルシフェルを同一と見なす場合があり、メギド72はこのつながりを逆順にたどることで「プロメテウス=ルシフェル」と解釈し、プロメテウスを悪魔たる存在だと定義したものと考える。
  • 真-68 ネルガル(Nergal)
    元ネタ:メソポタミア神話
    前述のティアマトと出典は同一。太陽神としての側面を持ち、一般的な太陽神として陽の側面をフィーチャーされることもあるが、メソポタミアにおいては夏が死の季節であり、疫病や黄泉をも司るとされる。
  • 真-69 バールゼフォン(Baalzephon)
    元ネタ;エジプト伝承→ヨーロッパ悪魔学
    古代エジプトで奴隷の逃亡を防ぐとして信奉されていたとされる。
    名前にバアル(Baal)が含まれていることからカナン文明の関連があるものと思われる。
  • 真-70 アスラフィル(Asrafil)
    元ネタ:イスラム
    イスラム教の死の天使であり音楽の天使。最後の審判の日に喇叭を吹き鳴らし眠っている死者を目覚めさせるとされる。
    ただ、アスラフィル自身に悪魔の属性はなく、ここに同一視されているダンテの『神曲』の「黒い天使」を絡ませているものと思われる。黒い天使たちは地獄の裁判長のもとへ悪人の魂を運ぶ役割を担っている
  • 真-71 アクィエル(Aquiel)
    元ネタ:中世ヨーロッパ悪魔学
    安息日(Aquel)に関連する悪魔。安息日はそのとおりに労働をすることを禁じる日のことだが、その日を妨げる悪魔とされている。
    メギドでは安息=死となぞらえ、死を妨げる=死霊を操る、と解釈されている

2019/09/24 更新

読み解け!神戸港紋章記述!

紋章学、というものが世にある。

Twitterにて先日ちょっと興味をそそられるTweetが流れてきたので解説しつつ、読みやすいよう書き起こしをしたいと思う。

 

 

 

The Armorial Bearings of THE PORT OF KOBE

VIDELICET - On a shield  per saltire Vert,Azure Argent and Azure in chief a representation of the Kobe City Emblem Argent,in base barrulet wavy Argent a Japanese "Kitamaebune" ship in sail banner flying Or,in dexter flank an anchor Azure and sinister flank an anchor Argent, Behind the shield is draped a garland of flowers of the Camellia Sasanqua tree and Hydrangea flowers Proper leaved Vert and above is placed a mural coronet Or and a Helmet befitting the degree of a City of Japan with a Mantling of the Liveries of the Port of Kobe (Vert doubled Argent) and on a Wreath of the same is set for Crest a Dutch fluyt in full sail the mainsail ensigned of the Kobe City Emblem and in an Escrol below the shield this Motto "PROGRESSIVE SPIRIT" . On a compartment of the waves of the sea two sea-horses assurgeant Argent, tails Vert armed and crined Or langued Gules ensigned of naval coronets Vert each supporting a standard. the dexter the Kobe tartan Proper and the sinister parted per pale Argent and Gules fretty counter-changed fretty attached to tridents Vert.

 

これは紋章記述(ブレイゾン Blazon)と呼ばれる、「紋章を文章だけで伝える書式」(Twitter添付画像二枚目の文章)をそのまま書き起こしたものだ。

紋章学におけるソースコードのようなものなので、書式は厳密に決まっている。

ただ、書式にさえ従えばいいので、同じブレイゾンに従って作ったとしても表記揺れが発生することは珍しくない*1

専門用語が使われているため、ぱっと見にはわけの分からない文章に映るかもしれない。

拙訳ではあるが以下に和訳を併記する。

解説は後述。

 

 

神戸港の紋章配置

即ち──ヴァート、アズュール、アージェント、アズュールのパー・サルタイアのシールド。チーフにアージェントの神戸市市章。ベースにアージェントのウェイヴィ・バリュレット、オーアの帆の『北前船』。デキスター側にアズュールの錨。シニスター側にアージェントの錨。シールドの背景にプロパーの山茶花の木と紫陽花の花、ヴァートの葉の花綱飾り。上部にオーアの小冠壁、神戸港の古くからの制服(ヴァート、裏地はアージェント)をまとったヘルメット、[ヘルメットの制服と]同ティンクチャーの鉢巻の上、主帆に神戸市市章を描いた帆を張ったフリュート*2。シールドの下にモットー『進歩精神』を書いたエスクロール。波で仕切られた海面にアージェントの上半身、ヴァートの下半身、オーアのたてがみと蹄、ギュールズの舌、ヴァートの海小冠を持つ海馬二頭をサポーターにし、両者旗竿を支えて立つ。デキスターは神戸のプロパーのタータンチェックシニスターはパー・ペイル、アージェントとギュールズのフレッティとカウンターチェンジのフレッティ。旗はどちらもヴァートのトライデントに掲げる。

 

さて、何のことやら、と思う方も多そうなので説明をば

 

シールド(Shield)…まんま「盾」の意味。他の部分を省略しても、この盾の部分さえ描けば紋章として成立する。

ティンクチャー(Tincture)…紋章の図像(チャージ)の色のことを指す。基本色5色(まれに7色とすることもある)、金属色2色と定められている。

ギュールズ(Gules 赤)アズュール(Azure 青)ヴァート(Vert 緑)パーピュア(Purpure 紫)、セーブル(Sable 黒)、テニ-(Tenny 橙(まれ))サングィン(Sanguine 深紅(まれ))

オーア(Or 金)アージェント(Argent 銀)

通例としてフランス語より借入した色名を使い言い表す。

基本色の上に基本色を重ねてはならず、金属色の上に金属色を重ねてはならないので、「金属色の地の上に基本色 or 基本色の地の上に金属色」を大原則とする。

プロパー(Proper)…「自然色」と訳されることがある。文字通り「自然の色のもの」を指し、具体的には「ティンクチャーのルールに縛られない色」のことで、人物の肌色、花の色、固有の色のものなどをプロパーとして指定することがある。

神戸港紋章では山茶花と紫陽花の色、神戸のタータンチェックをプロパーとして指定している。

パー・サルタイア(Per saltire)…パーティ(Partie)というシールドを分割するときの分割のしかたの一つ。パー・サルタイアは「X字に4分割」のことを指す。

チーフ・ベース・デキスターシニスター(Chief・Base・Dexter・Sinister)…紋章の「上部」「下部」「(盾を持つ側から見て)右側」「(盾を持つ側から見て)左側」をそれぞれ指す。

バリュレット (Barrulet)…オーディナリ(Ordinary)と呼ばれる幾何図像の一種。バー(Bar)より細い横線。神戸港の紋章はウェイヴィバリュレットなのでさらに波型に変形されている。

モットー(Motto)…「家訓」や「社訓」に相当する。現在使われる「モットー」の意味と大差はない。ラテン語で書かれることが多いが、英語やフランス語でも書かれる。

神戸港のモットーは英語だが、大阪港の紋章*3ラテン語でモットーが書かれている。

エスクロー(Escrol)…「巻物(Scroll)」の綴替え。モットーが書かれている細長いリボン状の部分

サポーター(Supporter)…紋章の両脇に描かれる動物や人物のことを指す。

神戸港の紋章は海馬

フレッティ(Fretty)…サブオーディナリ(Sub ordinary)という本家に対する分家が装飾として紋章に付け加える幾何図像の一種。斜めに線を引き、柵のように格子状にしたものをフレッティと呼ぶ。

カウンターチェンジ(Counter-changed)…真ん中で線を引き、デキスター側とシニスター側で色を入れ替える手法。

 

駆け足だが、ざっとした解説を付け加えさせて頂いた。

まだまだ説明できそうなところは多々あるものの、一旦はこれにて終わりとさせていただこうかと。

そのうちざっくりした解説書でも出したいなー。

*1:例えば、オックスフォード大学の紋章は「アズュールに3つのオーアの王冠、ギュールズの表紙にオーアのページの書物」という紋章だが、書物に書かれたモットー「DOMINUS ILLUMINATIO MEA」の表記が、同じ大学内の別セクションでさえ若干揺れる。

*2:フリュート - Wikipedia

*3:大阪市:大阪港の紋章 (…>港湾>大阪港のあらまし)

紙に歌えば

今週のお題「私の沼」

 

前回の記事はそれなりの支持をいただけたようで、誠にありがとうございます。

 

うん、「また」なんだ。済まない。

仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。

 

でも、このブログタイトルを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない

「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。

殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい、

そう思って、この記事を書いたんだ。

 

じゃあ、本文にいこうか。

(バーボンハウスコピペってまだ通じるんですかね)

 

閑話休題

 

「折り紙」が好きで好きで、というタイプでして。

気がついたら海外から取り寄せる本も山のように。

読めない言葉の本まであるのは自分でもさすがにどうかと思う(ポーランド語とロシア語はさすがにつらい)

 

折り紙のジャンルというのは極論すると

・生物

・非生物

・実用

・幾何

の4ジャンルに分かれます。

生物は言わずもがな。古典作品でいえば「折り鶴」「やっこさん」などが該当するでしょうか。

非生物は古典作品でいうならば「紙風船」「にそう舟」が代表でしょう。

実用は名の通り。「箸袋」や「たとう紙(紅入れ)」などなど。

そして本題の『幾何』です。

 

「折り紙の幾何」というジャンルは近年「オリガミクス」という数学の一ジャンルとしてのムーブメントが大きくあります。

近いところではチューハイや缶コーヒーの缶の「PCCPシェル」

宇宙航空工学のスピンオフ | ロケットの基礎知識 | JAXA 第一宇宙技術部門 ロケットナビゲーター

この製缶技法は日本の折り紙が関わっています。

研究者の三浦公亮氏の名を冠した「ミウラ折り」というものもあったり(こちらは地図の折りたたみや宇宙空間での太陽光電池の折りたたみに使われていたり)

小難しいことは置いておいて、私はこういった「幾何学的美」を折り紙の中に見出した作品を好んで作っています。

日本では「ユニット折り紙」、海外では「Modular Origami」と呼ばれるジャンルに関しては、かなりの量の資料を収集しています。

 

薗部光伸氏の「そのべユニット(薗部式ユニットとも)」を始祖とし、布施知子氏を「ユニット折り紙の女王」として世界に広がったジャンルです。

エカテリーナ・ルカシェーワ(Ekaterina Lukasheva)氏やメーナクシ・ムケルジ(Meenakshi Mukerji)氏などの海外作家も多く、それ専任で創作を行う作家もめずらしくありません。

幾何的な美しさに心奪われてしまう人はかなり多いものと見えます。

自分もその一人なのですけども……。

作ってみると分かるんですが、瞑想や座禅に似た自己との対話の世界に入っていくんですよね。

同じパーツを30折り、それをパズルのようにきちんきちんと組み立てていく……何も考えない、という贅沢がそこにあります。

ぜひとも一度やってみてほしいところ。さあ、紙は百円均一でいいから。早く。ほら。 

 

「一枚不切正方形」。というのがここ十数年の折り紙界のキーワード、なのですが、自分はどこか一つ外して、それが美しいのであるなら、それは「美」なのだ、と考えています。

一枚不切正方形というのは

「一枚」……紙を1枚だけ使うこと。複数枚の紙を使用しないこと。

「不切」……切り込みを入れたりしないこと。当然、破ったりもしない。

「正方形」……そのままの意味。長方形や三角形などのイレギュラーな用紙を使わない。

の総称です。一種のレギュレーションだと思っていただければ。

遵守は求められませんが、ここ数年の折り紙界の潮流は「大型化・複雑化」の一途でもあり、その複雑なモチーフをどうこのレギュレーション内で完結させるか、が腕の見せ所となっています。

多くのユニット折り紙作品(複数枚を使う)や佐藤ローズ(正五角形用紙を使う)のような優れた作品が多く輩出されてきた今、それにこだわって美を損ねることはない……と言うのは言い過ぎですが、もっと視野を広げるのも時に大切なのだな、と紙から多くを学ぶばかりです。

 

さらに言うなら、いっそ「紙」という素材さえも脱却してしまっていいのかもしれません。

オリエステル*1やおりあみ*2といった非紙折り紙が出てきていることを考えると、「紙」という素材からすら外れてもそれは「折り紙」なのだ、と勇気づけられるような気さえします。

 

紙を折るだけ。言い切ってしまえばそれだけでしかないのに、魔法のように形を変える薄っぺらな物体。

それに魅せられた人間は、もうもとに戻ってくることはないのでしょう。

でも、それが幸せなんです。温かい沼に浸かってあっぷあっぷして、ときどき呼吸ができるならば。

紙ヲタが選ぶ、この100均の紙がすごい!2017

先日Twitter等でダイヨ(大與紙工株式会社)の破産に伴う終売の告知がバズワードに、ということがあった。

大阪の老舗紙工会社ということもあり、小さい頃の「折り紙の原体験」がダイヨの折り紙であったという方は少なくなかったようだ。

しかしそれに伴い囁かれた、ちょっと聞き捨てならないTweetを数点見かけることがあった。

 

『100円ショップの折り紙は質が悪いし、正方形になってないことが多いから』

 

……言わんとすることは非常によく分かる。実際、現在でも質の良くない折り紙、というものは存在し、そういった紙が「折り紙の原体験」となってしまう事態は後を絶たない。

しかし、2017年現在「100円均一で1袋100円(税抜)で購入できる折り紙」の質は急激に向上している。

文具店に行けばたしかに上質な紙の折り紙は存在し、それはそれで原体験としては最適である、それは間違いない。タントとか色上質とかいいよね。

だが、100円ショップの紙にも価格不相応のクオリティを出してくるものが非常に増えたのも事実。

むしろ、「100円ショップ専売」のデザイン性に優れた紙さえ増えてきている、というのが現状だろう。

お子様の情操教育用に、趣味の道具として、選択の一助となれば幸いとこれを記す。

 

  • まず主要メーカーのお話

折り紙の紙というものはいささか特殊な仕様であることが多い。

基本のサイズが150mm×150mm。一般的な規格のA版・B版・四六版などとは一線を画する奇妙な大きさをしている。

これは日本の洋紙製造の歴史に因る部分が大きく、これだけでもブログ記事が一本書けるレベルなので、別の機会にきちんと調査の上で発表したい。

閑話休題

現在日本にて「折り紙」を販売しているメーカーは数社ある。順を追って特色を説明するとしよう。

 

  • ダイヨ(大與紙工株式会社)

書き出しからいきなり無い会社じゃねえかコラ、とお叱りを受けるやもしれないが、まだ在庫が残っていることもあろうとリストに含めることとした。

教育折り紙の西の雄だったと思っていただいて構わない。後述のトーヨーと対をなす企業(であった)。

教育折り紙というのは、社団法人 日本玩具協会の定める基準を満たし、

「複数色(20~50色が多い)が封入されている」

「薄く、コシのある折りやすい紙(秤量で50~60g/㎡)*1

「舐めたりしても害のないインクで印刷されている」

などの要素をクリアしたセットをざっくりと指すと考えていただきたい。要は教材用の規格を満たした紙、というわけですね。

ダイヨは教育折り紙以外では和紙に強く、千代紙等の和紙商品は非常に優れた品を輩出していたので、機会があればお手に取っていただきたい。

和紙らしいコシの強さ、柔らかな質感はダイヨの持ち味なので、ダイヨの千代紙を手に入れられる機会があればぜひともお試しを。

 

ダイヨが教育折り紙の西の雄ならばトーヨーは東の雄と言ってしまって差し支えないだろう。

教育折り紙のパッケージがよく似ているので混同されやすいが、実際ダイヨ倒産時のニュースでもパッケージを混同し「トーヨーが倒産した」と勘違いしている人は多かったですね。トーヨーの商圏は基本的に名古屋以東なので、この記事を読んでいる方の生まれ育った場所が関東や東北だとしたら、その「折り紙の原体験」はトーヨーの教育折り紙である可能性が高い。

ダイヨとは対照的に洋紙やプリント紙に強く、特に柄物の紙は非常に多彩。

Twitterなどで時折紹介されているこちらの「折り札」などもトーヨーの商品。印刷技術の高さに関しては群を抜いている(と個人的には考える)

東急ハンズで購入できる紙はトーヨーのものが多い。次いで次項のミドリの扱いも最近増えている印象がある。

 

  • ミドリ(株式会社デザインフィル)

おしゃれな紙、と言われたら迷わずミドリの「OrigamiOrigami(オリガミオリガミ)」シリーズを推すであろう。

クラフト紙に印刷をした折り紙など、ナチュラルで可愛らしい意匠にこだわった、デザイン性の高いものが揃っている。

一般的な教育折り紙よりさらに薄く(おそらく秤量で40~45g/㎡程度)、ハリがあるので畳紙やパッケージづくり、デコ用に向く。

惜しむらくはこちらの製品、非常に柄の入れ替わりが激しく、店頭在庫のみしかないという場合が多々あるため、気になるものがあれば見かけたときに即座のご購入をおすすめする。お気に入りの柄のアソートがもうすでに終売していたなんてことはザラです……。

 

  • ショウワグリム(ショウワグリム株式会社)

ジャポニカ学習帳」で有名なショウワノート株式会社の子会社。折り紙やステーショナリーをメインに製造している。

教育折り紙の製造に強く、特殊紙の折り紙の生産なども行っている。

またオーロラ折り紙やハーモニー折り紙といった特殊な加工・印刷の折り紙を古くから生産していたメーカーでもあり、七夕飾りなどでは非常によく見かける華やかな紙が多い。

ただ、ショウワグリムの強さはその点だけではない、むしろそれは添え物にすぎない、

ショウワグリムの一番の強みは「日本おりがみ会館(ゆしまの小林)」及び「日本折紙協会(NOA)」とのパイプを有していることだ。

日本で「折り紙」に関する産業をするのならば、どちらか/どちらもつながりを持つことになることが予想される陣営と言ってしまっても過言ではないであろう。

ショウワグリムはどちらとも取引が存在し、加えて言えば日本おりがみ会館とは結び付きが強い。

ショウワグリムは特殊加工紙に強く、ショウワグリム社でしか出していない紙も複数ある、ということを覚えていただけると幸い。

 

  • クラサワ(株式会社クラサワ)

こちらもショウワグリムに似た傾向の折り紙をよく生産している。

だが、ショウワグリムよりは和紙に強く、油紙や千代紙、特に金もみ和紙等に強い傾向がある。

またオーロラシャイン折り紙(ややこしいが、ショウワグリムのオーロラ折り紙とは質感も紙厚も全く異なる)、ホログラム折り紙などはこの会社の独壇場といっても過言ではない。

フィルム・ホイルのような非パルプ折り紙にも強みを発揮する会社だ。

なお、金・銀などのいわゆる「ホイル折り紙」の単色パックはトーヨー・クラサワ・エヒメ紙工の3社が主に販売している(他には株式会社たんぽぽやオキナ株式会社等の生産もある)。小さい頃は金色の折り紙って宝物でしたよね。

 

  • アイアイ(エヒメ紙工株式会社)

ショウワグリムなどの「教材」としての紙にさらに特化したようなメーカー。

色画用紙・紙テープ・OAペーパーなども生産している。

ショウワグリムが「生徒に向けて」の教育折り紙メーカーだとすれば、アイアイは「先生に向けて」の教育折り紙メーカーだといえるかもしれない。

どちらかといえば質実剛健といったラインナップで、あまり華美なもの・突飛なものは作らない傾向にある。

しかし、ここ最近はデザイン性のある紙の生産も始めている。どう攻勢をかけるか少し見もの。

 

  • Komoda(薦田紙工業株式会社)

折り紙、という意味で見れば、100円ショップでの扱いが大きな比重を占めるメーカー。

100円ショップの折り紙の質が上がった主な仕掛け人、と言えるかもしれない。

和紙・洋紙どちらも取り扱うが、どちらかといえば洋紙の質の方が高いように感じる。

プリント紙の質がよく、少し変わった柄の紙もよく出している。季節モノの柄をきちんきちんと出してくるのが強み

 

  • Kyowa(協和紙工株式会社)

薦田社と同様こちらも100円ショップに多く品を供給しているメーカー。

薦田にくらべて若干割高(1パックに封入されている枚数が少なかったり、色数が減らされてたり)だが、品質は薦田に比べて全体的に良質な印象を受ける。

画用紙のような厚手の紙に強みを発揮する……気がする。 

発色は非常に綺麗。

 

  • Amifa(株式会社アミファ)

ここまで印刷会社や製紙会社、文具製造会社の折り紙部門が続いたが、このAmifa社は若干毛色が異なる。

メインはラッピング資材、つまり生花包装用のラッピングペーパーなどをメインにデザイン・生産している。

マスキングテープなどのクラフト素材にも強い。そういう意味では先述のミドリと似ているかもしれない。

作っている紙もそういった意味でミドリに似ているが、どちらかといえばミドリよりガーリッシュだったりファンタジックだったり。

アミファのクラフト紙の折り紙は使っていて面白いので気になるならば一度ご購入をおすすめしたい。

 

  • では本題

ダイヨ・トーヨー・ミドリ・ショウワグリム・クラサワ・エヒメ・薦田・協和・アミファと主要9社を列記した。

このうち、いわゆる100円ショップで手に入れられると確認できているメーカーはエヒメ・薦田・協和・アミファの4強となる。

日本の100円ショップはザ・ダイソー(株式会社大創産業)・セリア(株式会社セリア)・キャンドゥ(株式会社キャンドゥ)・ワッツ・ミーツ・シルク(以上3形態全て株式会社ワッツ)の4社でほとんどのシェアを占めている。

さらに、ダイソーは自社ブランドとしているため、どこのメーカーなのかは判然としないものが多い(ただし、ショウワグリムの折り紙と同一のものを販売しているため、ショウワグリムの製品をPB化している可能性はアリ)

残りのセリア・キャンドゥ・ワッツもさほど商品に差はないが、アミファのみセリアに流通がある。

このあたり『クラフト材料の品揃えが多い』という定評のセリアが「折り紙」というジャンルにおいても頭一つ抜けてきた、という印象は強い。

 

そんななかでも個人的に強くおすすめしたいのは

薦田のワックスペーパー折り紙

協和のパステルカラーペーパー

同じく協和のレースペーパー

アミファの季節柄商品

ダイソーの透明折り紙

の5点をおすすめしたい。

順に紹介をしていこう。

 

  • 薦田 ワックスペーパー折り紙

ワックスペーパーなのでごくごく薄い紙(秤量で35~40g/㎡程度)が使用されている。

折り紙サイズに整形されたワックスペーパーというのはかなり珍しく、現在広く流通しており、単色のものは薦田のばかり、という印象がある(ドット入りのものはダイソーで入手可能、ストライプのものはエヒメが生産している)

ワックスペーパーなので不用意に折ると変な折り目が付いてしまい扱いが難しいが、透け感を出していきたいような場合には重宝する。

惜しむらくは色展開が少なく、チョイスがいささか扱いに困ることだろうか(赤・青・ベージュ・黒の4色。同時に展開しているラッピング用ワックスペーパーとはなぜか展開色が異なる)。

  • 協和 パステルカラーペーパー

協和からは2製品を選出させていただいた。まずはパステルカラーペーパー。

普通の折り紙と違うのはこの折り紙がいわゆる「色上質」を使って作られていることだろうか。

平たく言って模造紙と同じ紙をカットを変えたものなのだが(実際に協和は四六判の模造紙を100円ショップに流通させている。B紙って通じないんですね……)、それゆえに「普通の折り紙」にない特徴を出すことに成功している。

「表裏同色」だ。

一般的な折り紙は非常に雑に言うなら大きな紙に片面印刷を施し、それを裁断する、という工程を経て作られる。

これは洋紙の折り紙ならば逃れられない宿命であると言い切ってしまっても良いだろう。和紙や色画用紙のように「紙そのものに着色」しない限り、この縛りからは逃れることが出来ない。

しかし、協和は模造紙を折り紙化してしまった。これはかなり画期的だったと言ってもいい。ほどよく薄く、コシのある折り味はぜひとも一度味わっていただきたい、と思い選んだ次第。

入っている色数も多めでコスパもかなり優れている、と書き添えておく。

  • 協和 レースペーパー

レースペーパーといっても真っ白いものではない。和紙に切り抜きを入れ、麻の葉文様などの文様が現れるように形作ってあるものである。なんじゃそりゃ、と思った方はぜひとも一度お手にとっていただきたい。

この記事において、「和紙」の製品が省いてあるのはきちんと意図している。

悲しいかな、和紙というのは洋紙に比べ紙の目がしっかりしているため湿度の影響を多大に受けてしまう。

今回の記事が「100円ショップの折り紙もバカにはできない」という意図のもと書かれている以上、天候条件等で「正方形でなくなってしまう」可能性の大きい和紙製品は選外となっている。

それでもあえてこの製品を挙げたのは「100円ショップにしかないような特異な製品」であると判断したためだ。

非常に涼やかな意匠の紙となっているため、敷き紙のようにして使っても和モダンなインテリアとして活躍するだろう。

スプレーのりなどを使って真っ白な折り紙と接着して、なんて使い方もおもしろいかもしれない。使う人間のイマジネーション次第で大化けする紙だろう。

  • アミファ 季節柄商品

アミファの製品も選出したが、こちらはかなりくくりを大きくしてある。

季節柄、というのはその時節のイベントを意識したような柄の折り紙のことを便宜上そう呼んでいるだけにすぎない。

バレンタインのハート柄・春先の桜アソート・ハロウィンのオレンジ+紫のアソート・クリスマス仕様の白+赤+緑の柄物……非常に多彩なバリエーションがある。

それだけ季節ごとの柄が用意されている、というのはなかなかに驚嘆に値すべきことだと考える。

「折り紙で」「季節モノの柄」ということで子供っぽい物を想像されるかもしれないが、それはけして正しくないとだけ言っておこう。

いささかガーリッシュな意匠が多いのも事実だが、落ち着いたデザインが多く、イベントごとの特徴をしっかり考えた可愛らしいものとなっている。

ミニパッケージなどを作るにはちょうどいい紙、とも言えるかもしれない。

透明な折り紙、というのは非常に難しいものとされていた。

トレーシングペーパーやパラフィン紙は透光性こそあれど透明には程遠く、しかも折り目の入れ方によっては折り目に沿って割れてしまう。

では樹脂系は?となるとこれも難しい。セロファンはシワが寄る事が多く、見た目が悪い。ポリエステルではそもそも折り目がつかないことも多い。

そんななかに現れたのが東洋紡のオリエステル*2だ。

ざっくりと言えば「特殊加工により折りたためるようになったポリエステルフィルム」なので、折ることをまず主眼に置かれている。

透明性もきちんと担保されているので鑑賞に十分耐えうる。現在流通している折り紙としては破格に美しい非パルプ系折り紙のひとつだと個人的には考える。

ダイソーのものが同等のものかは不明ながら、おそらく同一のものだと考える。

実際にこちらも透け感は抜群なので、一度お試しあれ。

 

  • 最後に

長長と書き連ねたが、折り紙、というものは紙に左右されるものではない。

チラシを正方形に切り取ったもので作った折り鶴と高級和紙で作った折り鶴はたしかにどちらも同一の「折り鶴」だろう。

薗部ユニットも川崎ローズもルカシェーヴァのユニットもラングの鳩時計さえも所詮「紙は紙」でしかないのだから。

しかし、日本には連綿と紡がれてきた「折り紙」という文化があり、それを補助するものとして「折り紙」という専用の用紙が市販されている。

100円均一の紙だからといってそれがけしてバカにできるような品質のものでなく、さらには独自の特色を持った素晴らしい物を輩出してきている、ということを少しでも理解していただけたなら私がこの記事を書いた甲斐があったというもの。

さらにはそれで少しでも「折り紙」を手にとってもらえたなら、鶴の一羽、手裏剣の一つでも折ってみようという気になったのならば望外。

少しでも貴方の生活がおもしろおかしく、豊かになることを願って筆を置くこととしよう。

*1:1m×1mの大きさの紙の重さを用いて紙の厚みを表す。一般的なコピー用紙は64g

*2: http://olyester.net/